「質疑応答」

 どこかに出かけようとするクレインは、わたしに行き先を教えてくれない。でもわたしは知っているから、問い詰めない。今、彼は着る服に迷っていた。色合いや、その日の微妙な気温の変化について熟考している。漆黒かわずかに茶色がかったものがいいのか、生地の厚さはどの程度のものにしようか。部屋の隅でそれを見つめているわたしは、今、クレインが服のこと以外に何を考えているのか気にかかる。気にかかるので――、訊く。
「ああ? うるせえな黙ってろ、ぶち殺すぞ」
 クレインは手で銃の形を作り、わたしに向けた。わたしも同じアクションを取って、「バン」と呟くと、大げさなリアクションを取って、クレインは倒れる。
 わたしは声をあげて笑う。そして、今、何を考えているのか訊く。クレインは答えずに立ち上がり、濃紺のスーツを手に取った。着替えている間、わたしは何も話さなかった。クレインが着替え終わって外に出る直前、もう一度だけ、わたしは今何を考えているのか訊いた。クレインはわたしを一瞥して、ドアを開ける。その瞬間、覆面を被ったルベールが待ち構えていて、クレインを射殺する。
 倒れたクレインを見ながら、わたしは結局、死ぬ前の人間が何を考えているのか、知ることができなかったと思う。なら、ルベールで良い。わたしは右手をポケットに滑り込ませながら、何を考えているのかルベールに訊こうとするが、彼も何か言葉を発そうとしているのを察して、訊く必要はないのかもしれないと思う。