「虚実のあわいとかいう表現を最初に考えた奴を窓から投げ捨てたい」

 いやさ、その、ちょっと前から、怪談書いてるとかっていう話してたでしょ? で、それは創作で書いてるんだけど、怪談には実話っていうジャンルがあって、要は「新耳袋」みたいなさ、これは誰々さんから聞いた話で……、みたいなのがあってさ、そういうのも、ちょっと興味はあったわけ。けどさあ、そんなんどうやって集めんのかね? 取材とかっていうけどさ。頭のおかしいヤツみたいじゃん。普通に。で、本とか読んだら、とりあえず撒き餌みたいな感じで、自分からなんかしらの話をしたらいいらしいんだよ。でもそんなもんねーし、って思ってたんだけど、よく思い出したらあったんだよひとつだけ。変な、……おかしなことがさあ。だから、ちょっと聞いてくれないかな。
 子供のころ、俺、友達いなくて。全然。もう思い出っていったらあ、昼休みに校庭をぐるぐるぐるぐる回ってたらいつのまにか五時間目が始まってたとか、蟻が何匹か地面をうろうろしてるのに役割を与えて頭ん中で物語作って、最後全部指で潰して「おしまい」って呟いて、指に残った蟻の潰れたのをじっと見つめてたりとか、そんな思い出しかなくって。で、もう、全然覚えてないんだって。何をって、だから、*hoge*とどういういきさつで友達になったか、だよ。*hoge*はクラスメイトだった。確か、*hoge*にも友達はいなかったと思う。だからって、同じように友達がいない俺と仲良くしなくちゃいけない謂れはないから、結局なんかしらのきっかけがあって仲良くなったんだと思うんだけど、それが思い出せねーんだよまったく。ひとつも。そもそも*hoge*との記憶すら曖昧で、友達だったはずなのに、曖昧で。そうだな、せいぜい……暑い夏に、すげー暑い夏だよ。近所の小さな公園があって。滑り台があって。なんていうの? 滑る部分がなんか鉄板みたいな加工になってて、どうしようもなく熱くなるわけ。で、その上で、当然滑りなんかしなくて、ポケモンカードを交換してたわけ。俺、ポケモンカードなんか集めてなかったんだけど、なんかもらってて。それがひとつ。で、あともうひとつが、*hoge*んちね。*hoge*んちに行ったの。麦茶出された記憶があるから、やっぱ夏なのかな。ぜんぶ、ぜんぶひとつの夏の話だったのかもしれないな。*hoge*んちに行ったら、でっかいポスターがあって。どこに? さあ、それは覚えてないけど。それがさ、その絵柄が、なんていうかかすげーのっぺりとしてて……ちゃぶ台みたいなのを家族が囲んでて、なんか標語みたいなのが書いてあって。そんとき、変だな、って思ったのがあ、その、変なスペースがあんだよ。家族がちゃぶ台囲んでる。父親、母親、子供がふたりくらいいて、で、空きスペースがあるわけ。それがすげー変だと思って。何これ?と思って、でも聞けなくて。そんだけなんだけど。で、たぶんそのすぐ後くらいだと思うんだけどね、*hoge*が突然入院したわけ。で、全然退院する気配もなくって。それで、俺、そのころ結構学校とか休みがちだったから、まあなんかの病気で何日か学校休んで、出たら、担任が「前田くんは転校しました」とか言うんだよ。へ?って思って。俺が学校休んでる間に*hoge*が転校するなんて、そんなことある?とか思って。でも、まあ、なんかすぐにどうでもよくなっちゃったんだよね。その頃からいじめられるようなってたし。んで、そのしばらく後だったかに、たまたまね、街ん中に*hoge*んちにあったものと同じポスターを見かけたんだよ。あ、って思って。近付いたら、ある宗教団体のポスターで。あー、そういうことだったのかって思って。でもなんか違和感があって。すぐ気付いたよ。あの空きスペースが埋まってるって。そしたらもう直ぐだよな。あ、*hoge*いるわ、こん中に、ってね。
 は? そういうのは怪談とはちょっと違うんじゃないかって? そうなん? よくわかんねーわ。まあいいじゃん。どうせ作り話だし。どっか作り話かって? そりゃお前、ぜんぶ……ってわけじゃねーんだよな。いたもん。*hoge*。覚えてるし。なあ? さっき言ったろだって。寒い、寒いさ、冬の日に、雪が降って薄い氷が貼り付いた滑り台の上で、当然滑りなんかせずに遊戯王カードを交