「それが雪だった時に」

 新しい言葉がたくさん落ちていた。全部拾い上げて、自分のものにする。言葉を交番に届けなくてはいけない、という決まりはない。口下手な自分が人と滑らかに会話するには、こうするしかないのだ。
 しかし手に入れた新しい言葉たちをうまく使いこなすことができず、会話はこれまで通りに不調で終わる。いくら言葉を持っていたところで、使いこなすことができなければかえって悪い結果をもたらす。どうやらこれは自分が持っていてもしょうがないもののようだ。手放すことにする。
 しかしどうやって処分すればいいのかわからない。悩んだあげく、拾った場所にまた捨てることにする。人通りのない時を見計らって、言葉たちを落とした。音もなく地面に言葉が散らばっていく。それを見て何かに似ていると思うが、それを表現する言葉はたった今捨ててしまった。