柄刀一/密室キングダム

まあ、まずは褒めねばなるまい。純粋に、本格ミステリとして、この堅牢さは高い評価を与えるに値する。本格の構成要素を900ページ使って極限まで肥大化させ、なおかつ「もはや本格ではない何か」でもなくて、やはり本格でしかないというのは結構凄いんじゃないかね。密室、論理、そしてアクロバット――本格というジャンルを愛する人間なら手を出して損はしないだろう。これを読みながら自分がたいして本格を愛していないことに気付いたオレでさえ、まあページ数くらいは楽しんだからね。
だがはっきりdisらないといけないところはdisらなくてはならず、道行き、そしてエピローグ(のさらにラストは解釈のしようがあるかもしれないが)で登場人物に代弁させているだろうテーゼははっきりいってどうしようもない。ファッキン。何が《こういう昭和の犯罪は理解できるけど平成の犯罪は理解できない》(大意。この作品の構成は、1988年の事件を明示されてないが現在振り返る形をとっている)ですか? 適当かつ無責任すぎる。そうやって過去の狂気と現在の狂気を切り離して回顧に耽るのが「時代から逃げない」ってことですか? 「虚無への供物」でも読み直せよ。意味なき狂気がどんだけ氾濫してたと思ってんだ、それこそがあの作品を書かせたんじゃないのか? 《理解できる犯罪》とやらに充ちていた架空の過去を追憶して現在を切り捨てるのが本格ミステリの仕事ですか? だったらさっさと滅んじまえよ、ちょうどこの作品はその墓標にぴったりだ。いいだろう、この作品は認めよう、だが、これが最後だ、この先には何もない。

密室キングダム

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