貫井徳郎/夜想

読み始めて200pくらいまではだるくてどうしようかと思ったが、《コフリット》にひずみが生まれ始めてからは引き込まれて読んだ。
新興宗教と救いを巡る事象を、この作品はミステリ的仕掛けを用いて一方的に否定しない。トリックはおまけ程度と言われればそうだが、しかしこの作品においてミステリ的な仕掛けはかなり大きな意味を持つのではないか。
あえて紋切り型の表現を使うが、社会規範というものがある種宗教的であり、そしてそれは宗教によるものに匹敵するほどの狂気をも生み出しかねないことを、このトリックによる逆転は示している。それすらも図式的であるうらみはあるのだが……。
しかしもちろん、新興宗教を肯定しきるわけでもないことは、この後の展開を見れば明らかだ。救いを暗示するラストも、これまでの語り手が辿った道筋を振り返る時、はたしてその通り受け入れていいものか疑問が残る。
しかしある意味安い話だよなあ。戸梶圭太が書いても不思議じゃない。

夜想

夜想