「江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間」

本当に衝撃を受けるというのは、こういうことなのか……。
劇場にいるあいだは、ただ凄いと思っただけだった。しかし外に出て、渋谷の街で判った。脚がふらつく。ここはもうおれの知る街ではない。あのラストシーンによっておれの《現実》は拡張されてしまったのだと。
ラストシーンの内容じたいは知っていたが、ネタバレ気味に書いてしまうと、パノラマ島の原作みたいに、細かい肉片になるとばかり思っていた。しかし、まさか、あんな感じだなんて……!! 予想、思い込み、意識裡の《現実》、そういうものを完腑なきまでに裏切られ、こんなものが映像として現前しているのだという認識が産まれることによって、おれの《現実》は力づくに書き換えられてしまったのだ。なんてこった。AAAの売り方より強引だ。
もちろんその背景として、それまでの内容があることは間違いない。土方巽の演技、奇形人間の描写、凄絶なストーリーライン、突然出てくる明智小五郎……それらが少しずつ、おれの《現実》を蝕んでいたのだろう。
基礎教養もないのに過分に褒めそやすのもみっともないことだが、しかし、やはりこれは凄い。「無頼平野」と続けて観ると、30年もこの監督は人体を飛ばし続けたのかという感慨に襲われ、その業の深さに恐れ入るしかない。あとは27日と29日しかない。とりあえず、誰かに観てほしい。