「SIGHT」

 かつて「弓形の夜」の場として栄華を誇っていたダイナナクは、すでに廃墟と化している。この場所に中枢機能を集約させていた企業、弦月が崩壊してからというもの、ダイナナクは他のクで行き場をなくした浮浪者がたどり着く場所になっていた。
 ダイナナクに滞在していた浮浪者のあいだに、原因不明の死者が発生し始めたのは、參月ほど前からになる。はじめは弦月の保有する建物すべてが爆破された、いわゆる「月破」の際に発生した塵、いわゆる「ツキノチリ」が人体に悪影響を及ぼしているのではないかと囁かれていたが、「上層」の物たちが死者の身元を調査すると、意外な共通点が浮かび上がってきた。彼らはみな、弦月に警備員を派遣していた会社、常夜警備の社員だったのである。常夜警備は月破の際に従業員の大半を失い破綻していたが、その時仕事に従事していなかった警備員や、事務系の社員のうち、ダイナナクに流れ着いた者たちが、死を遂げていた。
 常夜警備の社員は、弦月が引き起こしていた数々の暴力や破壊行為とは関係なく、ただ契約関係によってのみ、あの夜あの場に居たというそれだけで、命を失っている。いつしか、浮浪者の死は、彼らの呪いではないかと噂されるようになった。
 壹昨日、ドキュメンタリー番組の収録で、月破の主犯にして現状の英雄、「SIGN」がダイナナクを訪れたとき、はたして彼は倒れて拾貳分後、そのまま死んだ。スタッフは苦しみながらやがて息絶える彼の姿を、壹秒も途切れるなくカメラに収め、そのまま立ち去った。