1.

 世界はあっけなく滅んだ。いや、正確に云えば、もうすぐ滅びようとしている。別にその事実だけあれば、理由Xには何を代入してもいい。第三次世界大戦の果てでもいいし、「マーズ・アタック!」みたいな宇宙人の侵攻の所為でもいいし、謎の伝染病が広まった結果でもいいし、ひとり、性病に罹ったまま路地で死んでいった娼婦(もしかしたら魔女かもしれない)の呪詛をそこに据えてもいい。それは重要ではない。
 もっともそれだけでは物語になりはしない。少しだけ条件を加えなければいけない。そこには三つの身体があることにする。仮にA、B、Cと名付けよう。他の条件はどうでもいい。男でも、女でも、三歳でも、七十七歳でも、「マーズ・アタック!」に出てくるような宇宙人でもいい。ただひとつだけ条件を加えよう。Cは死んでいる。その身体は、生命活動を終え、屍体になっている。
 もちろんそれは自然死ではない。が、死因もどうでもいい、といいたいところだが、実はこれはそういうわけにはいかない。それは他殺でなければいけない。刺殺でも、絞殺でも、轢殺でも刑殺でもいい(もうしつこいか)。ただそれは明らかに他殺だった。それだけははっきりしている。
 さて、ついさっきまでCは生きていた。世界に生き残った者――人間、じゃない。火星人かもしれないから――が三人になったのをどういう手段でか(もうその可能性のヴァリエーションを書こうとは思わない)確認したのちで、AとBはCが生きた姿を見ていた。
 そして、いま、彼らの眼の前にはCの屍体が残されている。

2.

 もういちいち書かないが……これは仮の会話だ。意味さえ同じものならば、それはどのようなものであってもいい。そこまで複雑な物語ではない。
「こうなると、どちらかが犯人だと云わざるを得ないな」
 気楽な調子で口にしたのはBだった。Aは先ほどから黙ったまま、言葉を発しようとしない。
「とりあえず、俺は犯人じゃないぜ――犯人じゃないなら、探偵かな」
 Bはそう云い放つ。もしかしたら肩をすくめたかもしれない。だが、その眼はAから離れない。鋭い視線だった。
 数秒の沈黙ののち、Aはうつむいていた顔を上げ、口を開いたとされている。
「いや、違う。僕こそが探偵だ」
 視線が交錯した、ことにしておこう。
「俺が犯人だという証拠はあるのか、探偵様?」
「あるわけないだろう」
 Bは声に出して笑い始めたが、Aはそれには応えなかったと聞いている。
「奇遇だな、俺もだ」
 Aはそれでも笑わなかった。たぶん、面白くなかったからだろうが、実はもう表情筋を失っていたからかもしれない。
「なあ、和解しようか」
 しばらくしてそう切り出したのは、Aのほうだったようだ。
「どうせ僕たちはもうすぐ滅んでしまうんだ。仲違いしたまま死にたいか?」
 Bは猜疑らしきものに充ちた視線らしきものをAに向けた。が、溜息らしきものを吐き、
「いいだろう。俺はお前をもう疑わない。俺たちは嘘を吐かないからな……もちろん、俺が犯人だってわけじゃないが」
 Bの云うとおり、AとBは嘘を吐かないことで結ばれていた。もちろん後付けの設定である。
「わかってくれたか。なら、友好の印に握手をしよう」
 Aの提案(?)の意味(?)をB(?)は図りかねていたようだったが、やがて(?)考える(?)の(?)が(?)面倒(?)に(?)な(?)っ(?)た(?)ように首を振って、手を差し出した(!)。
 その瞬間、Aが【1】して、続けざまに【2】した。Bは【3】をあげて、倒れこんだ。 ※自由に埋めましょう。ただし、Cの死因と関連させること。
「嘘吐き」
 Bはそう呟いて、絶命した。

3.

「僕は嘘なんて吐いていないさ」
 Aの哄笑が滅びかけ、壊れかけの世界に響いた。
「もちろん嘘なんて吐いていない。僕は探偵だ。その証拠に今から謎解きを始めましょう……さて、みなさん。といっても私しかいませんか」
 探偵は小さく笑った。
「結論から申し上げましょう。ふたつの連続殺人の犯人はこの私です。唯一にして絶対の証拠は、私の記憶です。私はこの手でBとCを殺害しました。自白も取れましたね。そう、私はたったいま、探偵であり犯人であり、証人です。被害者にはなれなかったですが、こればかりは仕方がない」
 それから犯人はふと気付いたように、
「ああ、そういえば、動機の説明を忘れていましたね。動機はただひとつ、《世界の終わり》を独占したかったのです。BやCのような汚らしい者たちと一緒にそれを迎えたくなかった。ただひとりでそれを愉しみたかっ

4.

 Aが云い終わる前に世界は滅んだ。きっと、「マーズ・アタック!」に出てくるような宇宙人がとどめを刺しに来たのだろう。