「盲獣」について

増村保造「盲獣」を観たら凄く面白かったのでメモ。
最近それなりに乱歩映画を観ているが、そのなかでももっとも乱歩のエッセンスを抽出し、なおかつ映画として完成度が高い。脚本もそうだし、セットも素晴らしいが、何より眼を奪われるのは緑魔子の存在感だった。正直いって映画にはまったく詳しくなく、このなんか凄い名前の女優が出ている作品も初めて見たのだけど、これほど完璧に《乱歩の女》でありうることができるのかと思いながら観ていた。
これはかなり個人的な意見なのだけど、乱歩作品において印象的な女性というのは――たとえば黒蜥蜴にしろ、お勢にしろ、木下芙蓉にしろ、小山田静子にしろ、明智文代にせよ――しなやかに強い。たとえ被害者であったとしても、それは記号的なイケニエではなく、視線で男たちを射抜き、消えない跡を残す。乱歩作品において、意志を持った女の眼は常に男性的な予定調和を歪めてきた。そして、「盲獣」における緑魔子はまさしくそうした役割を果たしていたように思う。極端な話、先ほどあげたどの役も、この女優は演じることができるのではないだろうか。もう比べるのもアレなんだろうけど、先週観た「エロチック乱歩 屋根裏の散歩者」の嘉門洋子なんかただ叫んでるだけなんだもんなあ……。