ウェブで書評を書くということ

小説を書くということはみっともないことであり、その小説を読んで書評を書くというのもまたみっともないことだ。しかし私たちにはみっともないことをする自由があるので、少なくとも僕はみっともないことをえんえんとやっている。それはみっともないことをすること(=本の感想を書くこと)によってなにがしかのもの、つまり小説に対するあらたな見方であるとか、自己顕示欲が満たされるとか、そういったものが得られると思っているからだ。だが、ただでさえみっともないのに、それによって何も得るものがないだろうにさらにみっともないことをする必要はない。
ここでいう「みっともないこと」とは、違う場所にいる相手のすることに口を出すことである。

id:hobo_king:20071003:1191381170
(なお、この件に関する疑問点については、すべてリンク先の前提に従っている)

「名も無き名無し」の人が全世界に向けて情報を発信出来るようになりました。

黙っていたはずの人達が黙っていなくなったのはネットを活用している人なら当然のように知っている事でしょう。かつてあったはずの「作家と読者」の間にあった「天と地」の開きは昔と比べて確実に狭まっています。

しかし、上で出てきた「愚痴を言っている作家達」にはその流れを食い止める事は出来ないし、恐らく食い止めるための口実も思いつかない。でも今まで持っていた自分達の優位性が徐々に失われつつある事にも気がついている。だから「愚痴」を言う。

作家と読者の関係はフラットになりつつあるかもしれないが、プロとアマチュアの関係がフラットになったわけではない(なお、そうではない、アマチュアもプロもフラットだ、とおっしゃるかたはぜひともオンライン文芸マガジン『回廊』を読んでいただき、感想をいただけると嬉しいです。無料です。もちろんそうでないかたも)。

コメント欄からさらに引用。

たかあきら 『(略)

なお、「表現者」=コメンター、「受益者」=ブログ主、という図式もまた成立する。つまり、皆が表現者であり、皆が受益者。これがネット社会。

あともうひとついえば、大昔(平安時代)は、文章を書く人は、知識人で、資産家で(当時は「紙」というメディアが大変高価だった)、そしてそれゆえに自分の魂の全てを映し出すぐらいの気合を入れて文章を綴っていた。
一昔前(戦前戦後あたり)は、文章を書くというのは一部知識人の特権だった。だから、一文字一文字に誇りを持って書き綴っていた。
最近は、(ワープロ・PCの普及で)誰でも文章を書けるようになった。その為ろくに推敲もせずに書き殴ったものが書店に並ぶようになった。
今は、第三者の目(編集・校閲)を通らない、ネット小説やケータイ小説さえ世に出るようになった為、文章を知らないお子様が勢いだけで書き散らしたものさえ散見される。

これは、「作家」の質の問題であり、同時にHPで文章を発表する人間の質の問題でもある。
既に、その両者には差はないということに、お互い気付くべきではないでしょうか。』 (2007/10/03 18:56)

質が問われるという意味において、確かに両者のあいだに差はない。しかし、歴然とした差が存在する箇所がある。それはリスクだ。作家は膨大な時間をかけ一冊の本を書き上げ、作家生命や専業の場合は生活をもかけて本を出版する。ウェブで書評を書いている人間がせおっているリスクは、せいぜい2chでさらされて嫌な気分になるくらいだ。そして嫌になったらやめればいい。作家は辞めると飢える。たとえば自分の経験からしても、むかし某所でSSを書いていたとき、僕自身はあまり叩かれることはなかったが、別の書き手が匿名の書き込み主に理不尽に叩かれるのを見て本当に腹が立ったものだ。それはその内容ではなく、背負っているリスクの問題であったように思う(この場合は労力、時間のみだが)。
いわゆる職業としての書評家、評論家がなんだかんだ言われつつもそれなりの存在として認識されるのは、作家と同じだけのリスクを背負っているからだ。もし、ウェブ書評だけで生活するウェブ書評家が出現したとしたら、それは作家とフラットな関係で渡り合うことができるだろう。だが、この場合それはもはや違う話だ。
確かに、2chでネット書評家の悪口をいうのはみっともないことだ。しかし、プロとアマチュアが背負うリスクを考えればむしろこの種の出来事はもっと早くに起きてもおかしくはなかったと思う。
繰り返すが、私たちにはみっともないことをする自由がある。そして原理的な立場に立てば、僕は小説と評論は等価だと考えている。だからこれからも作家のことなんて考えず、好きにネットで書評を書くべきだ。だが、それはそこに価値があるからだ。今回の一連の出来事から、何か価値があるものが生まれるとは思いがたい。ただただみっともなさばかりが増していっているだけであるような気がする。最後に、本当にフラットな関係で作品に臨みたい方も、そうでない方も、オンライン文芸マガジン『回廊』と、その作品をよろしくお願いします。最新号は今月発行です。いつでも忌憚のない感想を受け付けております。

(追記)以前感想リンクを作ったときに自動トラックバックを切っていた所為でトラックバックが飛んでいませんでした。すいません。戻したので飛んでいるはずなんですが……。