吉田修一/悪人

難しい……。なんだろうなあ、これは。人が他者をいかに捉えるか、という問題を、殺人という行為とそれが与える影響を通して徹底的に描きつくした小説ではないか、ということをとりあえず思った。

(追記)なんか泣いたとか書いてある感想を見るんだけど、えー……。この小説って感情移入を拒否する構造になっているようになってる気がするんだが。相当数の登場人物の視点を採用しているのは、全体像を描くためではなく、むしろ逆に全体像の見えなさを描くためではないだろうか。結局祐一という人間の本質というか核心は不可解なまま終わるんだしさ。たとえば「模倣犯」とはそのへんが決定的に違う。そのうえで、あのラストは、感情移入というか、エンタテイメントであることを強く拒絶するものであるように思えた。純愛はミステリーってことですか?
(さらに追記)あー違う、「模倣犯」って結局犯人の視点が存在しなかったんだっけ? だからそういう意味では違うのか。なんていうかさ、「模倣犯」は割り切れなさを残した小説で、「悪人」は割り切れなさを描いた小説なんだよ。

悪人

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