坂木司/切れない糸
もったいない。デビューから三年経った後に発表された作品に云うことでもないけど、これでデビューしていればこれほどの扱いは受けなかっただろうにと思う。正直に云えば面白かったね。
今から思えば引きこもり探偵シリーズというのは共依存というシステムで全肯定することで「探偵の傲慢」ともいうべきものを剥き出しにする構造を持っていたのではないだろうか。それだけではないが、個人的にあのシリーズに対して感じた不快さの多くはそこにあったようにも思える。この作品は、まあ深読みすればどうとも取れるがそれなりに距離が取れていて、それゆえにこの作家本来の持ち味である、心理と謎解きの絡ませあいが目立っている。その分ちょっとしたエゴも目立つが、そこは大目に見てやりたい。個人的には、引きこもり探偵シリーズへの不満にぬるいながらも切り込んだ「秋祭りの夜」を評価したいが、ミステリとしては「東京、東京」が捨てがたい。日常の謎の短編で半分以上が解決編というのは、なかなか珍しいじゃないんだろうか。
そういうわけで騙されたと思って読んでほしくはあるのだが、引きこもり探偵シリーズを読んだある種の読者は二度と騙されようとはしないだろうことは想像に難くなく、やはりもったいないなと思う。これまでのことがあって過大評価しているような気もするが、まあ作家読みというのはそういうものです。
- 作者: 坂木司
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2005/05/30
- メディア: 単行本
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