渡辺浩弐/iKILL

いつの間にこんなに上手くなったんだ。方法論はゲーム・キッズのころから変化ないけど、小手先で作ってる感じがなくなった。まさかここにきて化けるとは……。
で、別に比べる必要もないのだが、読んだばかりなので「密室殺人ゲーム王手飛車取り」のことをどうしても思い出してしまう。ネットと暴力をめぐるアレコレをジャンクなガジェットとひねりのあるプロットで描き出そうとしている両作だが、違いはそのテンションにある。「密室殺人〜」はハイテンションだが、この作品の文体ははひたすらにローテンション。静かですらある。
「密室殺人〜」の真価はそこにはないし、ある意味そこを含めて傑作と思っていることをあらかじめ書いておくけど、「密室殺人〜」のウェブ小説としての弱さは、ウェブの暴力性を数人の登場人物で喩えていることにあると思う。それに比して、最近の2chをめぐるいくつかの議論に扱われているような、個の集体としての集団がつくりだす「正義」が、この作品にはほぼ完璧に描き出されている(その点において、第四話の方法論は絶妙)。正直、ウェブをここまでのレベルで描いた小説を読めるとは思っていなかった。
だが、重要なのはここからだが、この作品はけしてウェブをリアルに描いているわけではない(それを試みたのが「密室殺人〜」)。むしろ逆で、あざといアイテムをつぎ込んだその静かな描写には違和感がつきまとう。だが、それこそがウェブというものではないか。不自然さを自然に描こうとするのではなく、不自然さを別の不自然さをもって描くことで、ウェブという不自然さを比喩することに成功しているのだとおれは思う。歌野と渡辺は一歳違いだから、年齢の問題ではない。やはりどれだけその近くにいたか、だろうね。
ところで、昨日試しに始めてみたiKILL2.0の続きが、本書を読み終えた数分後に届いたのには心底吃驚した。いや、見張られているようでさ……ね、……え?

iKILL (講談社BOX)

iKILL (講談社BOX)